デモンストレーション(デモ)は、法制度上「集団示威運動」「集団示威行進」などと呼称されますが、その字義通り多様な人間が集ってともに公道を練り歩く行動のことをいいます。ラテン語系でいうマニフェスタシオンの語義にも示唆されていますが、社会的な主張を宣明するという意義もそのなかには含まれています。つまりデモは、公共空間への働きかけをも包含する社会的な行為として存立しています。
デモという共同性を有する行為は、歴史的に見て、また現状においても、公共の領域において優先的な位置をしめており、憲法だけでなく公安条例などですらこれを保障しています(自治体による。公安条例の拘束性と矛盾については後述)。公安条例が各自治体で制定されたのは1940年代後半からですが、それ以前は条例によらなくても、あるいは戦前では制度上は無保障の状況にありながら、デモは当然のように公道においてその公的空間を一時占有するものとして成立し、またその事実上の権利は実践によって守られながら社会に刻印されてきました。私的行為に優先する権利としてデモが社会的に追求・実践されてきたというきわめて意義深い歴史はまた、戦後においては国家を一定の枠組みに縛ろうとする立憲主義に基づく「集会・結社・表現の自由」の社会史と密接に連関しています。
「自由と生存のメーデー07」実行委員会(以下・私たち)は、公共空間におけるデモの優先的なポテンシャルを祝します。街路が「私的な」広告に溢れかえり、私人の様々な営利活動が最も多くこれを占有する──つまり「私(わたくし)」性が氾濫するという空疎な「公共」ばかりが目立ついま、リスクを引き受けながら公共性に働きかける「集団示威行進」を、誇りをもって私たちは提起します。様々なコンフリクト(衝突、摩擦)の可能性を拒否することなく、多くの人々との討議を前提とした共同性の喚起に努めることは、多様性を保障する営為でもあり、決して無為ではないと私たちは考えます。
大衆的な往来の一時的占拠や集団通交は、人の自発的な行為として、洋の東西をとわず古くから歴史に現れています。そして元来それは誰かに届け出るようなものではありませんでした。民衆的な“寄り合い”にまつわる社会史をひもとけば、そのことは明らかとなります。近代法に規定されるまでもなく、人は長きにわたって、寄り来たって練り歩いてきた経験を持っているのです。
しかし「自由と生存のメーデー07」のデモは「届け出デモ」です。憲法上は「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」(第21条)と規定されていますが、東京都ではこれに逆行するかたちで公安条例(正式名称「集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例」)が制定されており、届け出ないで車道でデモを行なえば同条例違反・道交法違反とされてしまいます。デモ参加者を危険にさらすのは本意ではありませんので、私たちは条例に則って東京都公安委員会にデモを届けています。
公安条例によれば、公安委員会はデモの「許可申請書」を必ず受理しなければならず、「公共の安寧」の確保を名目として「許可/不許可」の判断をくだします。不許可にできるのは「公共の安寧を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合」だけで、コース変更も「公共の秩序又は公衆の安全を保持するためやむを得ない場合」に限られますが、デモの「届け」は実質的には許可制度とされてしまっています。車社会という現状は無視できませんから、デモを実施する際に何らかの交通整理・調整が必要なことは了解できます。しかしなぜ公安委員会に「許可をいただく」かたちを取らなければならないのかについては、とうてい納得できません。
東京都ではデモの「許可申請書」を受理するのは東京都公安委員会ですが、届ける窓口としてデモ出発地の管轄署を経由しなければならないという規定が公安条例にあります。しかし管轄署のほとんどが「道路交通の調整」を名目的な理由としながら、警視庁と連携しつつ様々な介入をはかろうとします。とりわけデモコースなどについて「相談しよう」と言を左右にして、「許可申請書」を受け取ろうとしないことさえあります。こうした警察の干渉は、明らかに「集会・結社・表現の自由」に抵触します。これは、警察法により都道府県警察本部が都道府県公安委員会の庶務を執ることになっているカラクリにも起因します。つまり「都道府県警察の民主的な管理を保障し」、「政治的中立性を保障確保するための機関」(東京都公安委員会ウェブサイトより)であるはずの公安委員会の実務を警察官が行っているわけで、この全国共通のカラクリがデモの届けに大きく影を落としています。(ただし公安条例が存在しない自治体では、デモが置かれる法制度上の環境は異なります)
しかし公安条例はあくまで「公共の安寧」の確保を目的とするものですから、それがそのまま公道をコースとするデモ計画について干渉する根拠にはなりえません。もちろん公道といっても様々な物理的条件がありますから、当然私たちも交通事情を勘案してコースを選定しますし、工事などの不慮の事態がある場合、窓口にすぎない警察側と調整することもありえます。それでも「公共の安寧」にとって必要ではない「警察本位の事情」を勘案する謂れは一切ありません。そも憲法違反の論争がある公安条例によってさえ、「公共の安寧」に照らし合わせて可否の判断をするのは公安委員会であるからです。しかしながら前記したように、都道府県公安委員会は実質的に都道府県警察本部と一体化していますから、警察の介入を拒否して「許可申請書」を出しても、結局その内容をチェックするのは警察という堂々めぐりになってしまいます。やはりそこには制度上の矛盾があるといわざるをえません。
制度上のカラクリに対する不満を持ちつつも、私たちは新宿警察署を経由して東京都公安委員会にデモを届け出ました。
コースについて付言しておくと、新宿の大ガードをくぐって靖国通りを通過するケースはこの何十年もなかったといいますが(警視庁・新宿署談)、法理にまったく根拠をおかない警察側の「お願い」にあくまで応じなければそのような事態はありえなかったでしょう。「法制度に原則的にしたがう」なら、むしろ新宿・歌舞伎町の繁華街近くを通るコースが今まで実現されなかったことが不思議なくらいですが、私たちは警察との「交渉」を一切拒否して、今回当然のようにこのコースを選択しました。
結果、4月27日(金)に公安委員会より「許可」が出ました。靖国通りの交通量は比較的多い方かもしれませんが、幹線通りだけあって車線に余裕もある公道であり、当然の結果です。
従来、数多くのサウンドデモが「デモの届け」だけで敢行されてきました。しかし昨年の「自由と生存のメーデー06」では、先頭の宣伝車(PRカー)としてのトラックの荷台にDJが乗車していたことを理由として不当な弾圧が惹起されました。管轄署(原宿署)はサウンドトラックの形態について事前に合意していたにもかかわらず、警視庁公安部がデモ当日になって、所轄の頭越しにDJ荷台乗車を道交法55条違反として弾圧しました。事実DJは、荷台を襲撃した公安警察官によって誰何もなく不当に逮捕されてしまい、他2名が公務執行妨害をでっち上げられてしまいました(全員不起訴処分)。
詳しい経緯についてはメーデー救援会ウェッブログやその不当性を解説した8.5プレカリアート@アキバ・デモ「申請」顛末記を参照いただきたいのですが、デモに一体する宣伝車に対して道交法を通常通りに適用しようとする方が本来おかしな話です。デモの速度は警視庁計算で3km/hであり(私たちは2km/hを主張しています)、車道における法定速度とはかけ離れたかたちで宣伝車の扱いが存立しています。つまりデモにおける宣伝車の特別の扱いとは、道交法の目的(「第一条 この法律は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする」)との調整が、「デモ申請」だけですでにはかられていると見るべきものです。したがって速度が極端に遅いデモの車輌に対して、「危険防止」「交通安全」などの道交法本来の目的を乗り越えて、杓子定規に「DJ荷台乗車=目的外乗車」として検挙する方が無茶というものでしょう。仮に「目的外乗車」であるとしても、時速2〜3kmという条件が現場を規定する以上、それは何ら「危険防止」「交通安全」にとって問題にはならないはずです。
しかし警視庁・原宿署はあくまで弾圧を正当と主張し、特に警視庁は事後にもその判断を継続しています。そのため私たちは甚だ不本意ながら、トラックの荷台にDJが乗車する形態のサウンドデモ(レイヴデモ)の実施にあたっては、道交法56条に則り「目的外乗車」のための「荷台乗車申請」を行うことによって不当弾圧を回避しています。8.5プレカリアート@アキバでは、押し込まれたかたちではあれ、この対応によって無事にデモを貫徹することができました。今回の「自由と生存のメーデー07」でも新宿署に「荷台乗車申請」を行なっています。
メーデー当日は、警察のいう「法的問題」を不承不承ながらクリアしたかたちでデモを行いますので、参加者の皆さんには「安心」して参加していただきたいと思います。とはいえ昨年のだまし討ちの記憶も新しく、またこの間のデモに対する並進規制(サンドウィッチ規制)ならぬ「軍艦巻き規制」(先頭に指揮官車+歩道・車道両側の並進規制+後部推進規制)という機動隊による異様な「警備」や、公安警察官の粘着ストーカーぶりを顧慮すれば、なかなか気軽に「安心して」とはいえないのが正直なところです。
しかし私たちは怖れません。卑劣な公安警察の介入や機動隊員の挑発を整然とはねのけて弾圧を防ぎ、力強くデモを貫徹するつもりです。警視庁の警備連絡係と管轄署(新宿署)警備課に対しては「あくまでデモを無事にやりきるのが目的だ」と告知し、不当な妨害をしないように要求してあります。現場ではデモスタッフが多々動くこともあるかもしれませんが、あくまで参加者ではなく警察に対して向かうかたちで「調整」していくつもりですので、どうかご理解・ご協力のほどをお願いしたいと思います。
どうも固いことばかり並べてきましたが、警察の挑発に対してヒートアップして「直対応」さえしなければ、どうということはありません。確かに「軍艦巻き規制」をされれば腹が立ちますが、それを乗り越えて私たちの主張をデモで表現することに注力していきたいと思います。当日は「?」なアピールもありますし、プラカードや打楽器なども準備します。もちろん「賑やかし」グッズの持参も歓迎します。ともにメーデーを闘いの日としてかちとりましょう。
十分気をつけていても、万が一ということがあります。不当に逮捕されるようなことがあれば、主催者が全力で救援活動を行いますので、あわてずに被疑者の権利として黙秘権ないし自己負罪拒否権をどうどうと行使してください(要するに「黙して語らず」にいること)。不必要なことを喋ればそれだけ不利になり、冤罪に陥れられる原因ともなります。また弁護士の接見や選任の要求も権利として行えますので、逮捕手続き後ただちに「救援連絡センターの弁護士を選任する」と要求してください。救援連絡センターは「国家権力による弾圧に対しては犠牲者の思想的信条、政治的見解のいかんを問わず、救援する」NGOで、協力弁護士の手配などで親身にバックアップしてくれます。その際「電話番号は03-3591-1301(さあ獄入り意味多い)」と明確に伝えれば、警察の不作為を回避することができます。後は弁護士や主催者の支援に任せてください。
※当日デモは各種メディアによって取材されます。顔を撮影されたくない方はサングラスなどで適宜ご対応ください。